シーボルト、瀬戸内海の美を嘆賞する

江戸時代、日本に来て西洋医学を教えたシーボルト(1796-1866)。そのシーボルトは著書『江戸参府紀行』において、瀬戸内の美を嘆賞する次のような文章をのこしている。

この内海の航海をはじめて以来、われわれは日本におけるこれまでの滞在中もっとも楽しみの多い日々を送った。船が向きを変えるたびに魅するように美しい島々の眺めがあらわれ、島や岩島の間に見えかくれする日本(注-本州のこと)と四国の海岸の景色は驚くばかりで、――ある時は緑の畑と黄金色の花咲くアブラナ畑の低い丘に農家や漁村が活気を与え、ある時は切り立った岩壁に滝がかかり、また常緑の森のかなたに大名の城の天守閣がそびえ、その地方に飾る無数の神社仏閣が見える。はるかかなたには南と北に山が天界との境をえがいている。隆起した円い頂の峯、それをしのぐ錐形の山、きざきざの裂けたような山頂が見え、――峯や谷は雪におおわれている。われわれのすぐ近くを過ぎてゆくいくつかの島は少なからず目をひく光景を呈している。木のない不毛の岩塊は赤味を帯びた粗い粒の花崗岩で、白く輝く石英やぎらぎらする片麻岩の脈が、その岩を貫いている。また生い茂った森のあるなだらかな丘をなし、またその姿は裂けた渓谷の壁にも似て、その麓をたくさんのバラバラした石塊がおおっている。これらの島の多くは険しい岸で特色づけられ、海面下に連なっている山脈の頂上と思われ、その方向は概して東北をさし、山脈の性質は火山活動による成立を物語っている。それは有史以前の地殻変動の舞台であるが、温和な島国の気候と千年の努力が、これを野趣の溢れたロマンチックな庭園に作り変えたのである。(中略)常緑の葉をもった樹木の多数の種類、ことにスギ、マツなどのすばらしい松柏類は日本の特徴ある植物であり、早く花を開く樹木や灌木はこの地方に常春の外観を与えている。(中略)この海上の活溌な船の行き来は美しい自然に劣らぬほどわれわれを楽しませてくれた。数百の商船にわれわれは出会ったし、数え切れない漁船は、昼間は楽しげな舟歌で活気をみなぎらせ、夜は漁火で海を照らしていた。われわれの船の上でも随行の日本人はいつも上機嫌だった。


瀬戸内の地質などにも言及した科学者らしい記述。シーボルトは瀬戸内の美を発見した最初の西洋人であったかもしれない。

吉村昭の歴史小説『ふぉん・しいほるとの娘』に、

瀬戸内海の風光の美しさに、シーボルトたちは眼をうばわれていたが、同時に航行する船の数にも感嘆していた。漁船が多く、昼間は漁歌がきこえ、夜になると漁火が海上を明るませた。


とあるのは、『江戸参府紀行』の上引部分にもとづいたものである。シーボルトが瀬戸内の美しさに眼をうばわれたというのは事実その通りであった。

【典拠文献・参考文献】
シーボルト・斎藤信訳『江戸参府紀行』平凡社東洋文庫 1967年3月
吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘(上)』新潮文庫 1993年5月

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

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