鴎外、食の衛生についての心がけ

ドイツの衛生学を学んだ森鴎外は、食べ物の衛生について極端なまでに神経質だった。鴎外の長女・森茉莉、次女・小堀杏奴はそうした鴎外の性癖について次のように述べている。

私の家ではコレラが流行っていない時でも、子供たちには水は一切飲ませず、果物も煮てくわせるので、私は母の実家で従姉妹たちと遊んでいるところへ女中が生の水密桃の皮を剥いたのを運んで来た。私は母が祖母や叔母たちと話し込んで夢中になっているのを幸、たべたが、世の中にこんな美味しいものがあったのかと、深く驚いたのである。 森茉莉「神戸っ子、浜っ子、江戸っ子、喫茶店「ソネ」」

朝麦湯を造って薬罐に入れる時、その薬罐に、前の日の麦湯の残りが一滴のこっていても、その日の麦湯が悪くなると、やかましく母に言った。 森茉莉「同上」

父と近所に散歩に行くとつまらなかった。私が小さな手で父の手の指をしっかりと握りしめながら、小声で「アイスクリイム、アイスクリイム」とくり返すと、決してそれを聴き届けなかった。近所の氷水屋のアイスクリームは危険だと言って、銀座の資生堂のでなくてはたべさせてくれなかった。 森茉莉「父のこと3」

パッパは十九世紀末のドイツの衛生学に凝り固まっていたので、アイスクリームはいい店のものに限って与え、果物は皆煮て、冷蔵庫で冷たくし、砂糖をかけて、与えた。 森茉莉「同上」

父は番茶を大変に清潔なものとしていて、母と小倉に新婚旅行をした時、汽車の中で母が朝、洗面所に行こうとすると「汽車の洗面所の水も水道の栓も不潔だ。番茶でうがいをしておけ」と言ったそうだ。 森茉莉「同上」

衛生という事についてひどく神経質で、自分の家で作るもの以外は用心して食べる。精養軒などに行っても、どろどろしたマヨネズのようなものは食べない方がいいとよく私たちに注意してくれた。どろどろした物ほど人の手を多く経ているから、それだけ不潔だというのである。 小堀杏奴『晩年の父』


コレラや食中毒に対する用心からか、鴎外は「不潔」と思われる食品を徹底して避けた。森茉莉によると、そんな鴎外の家庭での口癖は「整理整頓」と「清潔」の二つであったという。

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【典拠文献・参考文献】
小堀杏奴『晩年の父』岩波文庫 1981年9月
『森茉莉全集6 ドッキリチャンネル(Ⅰ)』筑摩書房 1993年10月
『森茉莉全集7 ドッキリチャンネル(Ⅱ)』筑摩書房 1993年11月

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テーマ : 歴史上の人物
ジャンル : 学問・文化・芸術

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