つくし

正岡子規、水野広徳は、春のつくしとりについて次のようなことを述べている。

自分等の郷里では春になると男とも女とも言はず郊外へ出て土筆(つくし)を取ることを非常の楽しみとして居る習慣がある。この土筆は勿論煮てくふのであるから、東京辺の嫁菜摘みも同じやうな趣きではあるが、実際はそれにもまして、土筆を摘むといふ事其事が非常に愉快を感ずることになって居る。それで人々が争ふて土筆を取りに出掛けるので郊外一二里の所には土筆は余り沢山みつからない。所が東京の近辺では之を採るものが極めて少ない為めでもあるか、赤羽の土手には十間程の間にとても採り尽せない程の土筆が林立して居ったさうな。(正岡子規「病牀苦語」)

松山では土筆のことを「ホウシコ」と言い、農村の人は見向きもしなかったが、都会の人は大変に之を賞味して、春先になると郊外へ土筆狩りに出掛けるものが多かった。東京でも大正頃までは土筆を取る人が少なく、多摩川や荒川の堤などには鎌で刈るほど有ったもので、僕等が土筆を取って居ると通行人が「それをどうなさいますか」と不思議がって尋ねたものである。(水野広徳「自伝」)


「それをどうなさいますか」と尋ねてくる人もいたぐらいだから、東京近辺ではあまりつくしを食べなかったのかもしれない。子規は「つくしほど食ふてうまきはなく」(明治35年4月4日「日本」発表の歌の詞書)というほどのつくし好き。水野広徳も東京でつくしをとりに行くくらいだったから、やはり好物だったのだろう。

つくしには独特の苦味があるが、あの苦味が春の味である。春は苦味が旬の味。辻嘉一(懐石料理)は、「春に苦味、夏は酸味、秋に甘味、冬は濃味と、天与の恵みは日本人の体を守るべく旬の味となって市場に出廻る、しあわせな民族と申せましょう」と述べている。

【典拠文献・参考文献】
『子規全集』第12巻(随筆2)講談社 1975年10月
『子規全集』第6巻(短歌 歌会稿)講談社 1977年5月
『水野広徳著作集』第8巻(自伝・年譜)雄山閣出版 1995年7月
辻嘉一『料理心得帳』中公文庫(改版) 2005年2月

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テーマ : 雑記
ジャンル : 学問・文化・芸術

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