子規推奨の鯛料理

子規にとって郷里松山で食べる鯛料理は格別なものであったようで、明治18年(1885)の夏の帰省中に書いた友人宛ての手紙には、

当地ニ於テ(中略)喜ばしきものハ第一海魚の鮮なる事にて候 就中小生の推して第一トスル所ノ者ハ鯛の吸ひ物と洗ひ鯛なり 洗ひ鯛ハさしみの類なれども夏日炎暑の候なれば之を洗ひし者なり 其味の美なることハ大兄等が万里外に垂涎せらるゝよりも猶甘し 殊に菊池兄に至てハ此天地ニ生を受ケシより以来未ダ嘗て其味を知らざる事なれば若シ万々一ノ事ありて之ヲ食はしめば一嘗三嘆のみならざるべし 兄等読んで此等に至て豈唾の口中にたまらざるを得んや 小生等時に之を食ふ者といへども書て此に至りて亦多少感慨を生ぜり 呵々 (明治18年8月2日 清水則遠宛書簡)


との文言がみえる。子規推奨の鯛料理は「吸い物(潮汁)」と「洗い」。ともに新鮮な鯛であることが求められる料理である。専門の料理人の言を引いておこう。

潮汁(うしおじる)の加減は、塩からくなってはいけませず、醤油も落さないのが本格だと伝えられます。タイの頭のウロコを充分に取り、食べよく切り、塩をふりかけてザルにのせ、二時間後に水で洗い、鍋に昆布の一切れと一緒に八倍量の水を注ぎ、火にかけ、煮あがる直前に昆布を引きあげ、塩加減をととのえ、お椀によそ入れ、木の芽を三葉浮かせます。(中略)潮汁は、タイが新鮮でないと、真の旨い純な潮汁にはなりませんので念のため。

洗いという料理は、魚のいちばん大切な脂肪分をも水で洗い去ることによって、口あたりにさっぱりとした別趣のうまさを求めるのでありまして、これこそが日本ならではの美味であり、水のよさがあればこその調理法であります。


懐石料理「辻留」の主人であった辻嘉一(1907-1988)の言である。この懐石料理の大家は食材としての鯛については、「海魚の王といわれるだけあって、マダイは姿も色もよく、クセのない上品な味で、その上、生でよし、煮てよし、焼いてよし、のあらゆる料理に適し、王者の貫禄十分です」と述べている。

【典拠文献・参考文献】
『子規全集』第18巻(書簡1)講談社 1977年1月
辻嘉一『味覚三昧』中公文庫 1979年4月
浪川寛治編著『辻留・辻嘉一語録 料理秘伝』婦人画報社 1996年11月

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テーマ : 雑記
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