松山の鯛めし

伊丹十三のエッセー集『再び女たちよ!』に次のような記述があった。

しばらく前に、赤坂の与太呂という店で鯛御飯ができるのを待っていたことがあって-鯛御飯というのは、静岡の鯛めしとはまるで関係がない。釜めし風の、うっすらとお醤油味のついた御飯をお釜で炊くのだが、炊く時に、鯛を一匹、御飯の上にのっけて炊いてしまう。そうして、炊き上がったところで、鯛の骨を取って、身を御飯の中へほぐして食べる、という仕掛けのものなのだが、これがなかなかよろしい。お店の人が鯛をほぐしたりしている間、一と足先におこげなんかをもらって、これで一杯やるというのも結構だし、食べ残した鯛御飯をお土産に貰って、夜中に雑炊にして食べるなんかも、これまたいいわけで、なにしろフルに愉しめるのですが-ええと、なんの話だったかというと、そうそう、要するに、そういう鯛御飯というものがあって、それを私は愛用しているわけだが、その日も私は鯛御飯が炊き上がるまでの四十分ばかりを、柴漬けで一杯やりながら待っていた。


上引のなか「鯛御飯というのは」から「愉しめるのですが」までは長い挿入句。この部分で説明されている「鯛御飯」というのは松山地方の郷土料理鯛めしである。伊丹十三は京都の生まれであるが、少年時代を父伊丹万作(映画監督)の実家があった松山で過ごし、松山が自身の郷里であるとの意識をもっていた(エッセー集『女たちよ!』の中で「私の郷里は愛媛県でありますが、わがふるさとでは……」と言っている)。郷土料理の鯛めしも松山在住時代に幾度となく食べたことがあったに違いない。赤坂の店で食べる「鯛御飯」は伊丹にとっては郷里松山を想い起こさせるものではなかっただろうか。なお、上引のなかで言及されている「静岡の鯛めし」というのは、炊き込み御飯に鯛の身のソボロをまぜたものであるらしい。

【典拠文献・参考文献】
伊丹十三『女たちよ!』新潮文庫 2005年3月
伊丹十三『再び女たちよ!』新潮文庫 2005年7月

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テーマ : 雑記
ジャンル : 学問・文化・芸術

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