日本人が挨拶するときに発する音

幕末~明治初期に来日した外国人は、日本人が挨拶をするときに、シューシューという帯気音を発すると述べている。

全員(注-来艦した幕府の役人)が歯の間から息を吸ってシューシューいいながらお辞儀をした。(ヴィシェスラフツォフ)

膝に手のひらをのせ、やや中腰になって、ほぼ直角にまで上体を折り曲げて、彼らはすすりあげるように息をすいこみ、つぎには息をシューシュー吐きながら、幾度もこの体操のような動作をくりかえす。(メーチニコフ)

手を膝から脚まで下げ、この体操をやりながら、強く息を吸いこんでよろこびを表わす。(ティリー)

日本人は、英国人がともすれば想像するような未開の野蛮人であるどころか、外国人に対してだけでなく自分たちおたがいに対して、これほど行儀作法が洗練されている国民は世界のどこにもない。下層階級にあっても、知り合いが街で出会うと、近づく前にたて続けに二、三度低く頭を下げ、例のごとく鼻でシューシュー音を立てながら挨拶する。別れ際には、お世辞から誰々によろしくなど言いながら、おなじことがまた繰り返される。(エルマースト)

日本人は会話をする時、変なことをする。それは間断なく「ハ」「ヘイ」ということで、一例として一人が他の一人に話をしている時、話が一寸でもとぎれると後者が「ヘイ」といい、前者が「ハ」という。これは彼が謹聴し、且つ了解していることを示すと同時に、尊敬の念を表すのである。またお互に話をしながら、彼等は口で、熱いお茶を飲んで舌に火傷(やけど)をしたもんだから息を吸い込んで冷そうとでもするような、或は腹の空った子供等が素敵にうまい物を見た時に出すような、音をさせる。この音は卑下か尊敬かを示すものである。(モース)


上記外国人のうち、特に日本びいきであったモース(大森貝塚の発見で有名なアメリカの動物学者、考古学者。1838-1925)は、滞日中にお辞儀の作法が身につき、このシューシュー音も出せるようになっていた。モースは次のように言っている。

その晩知事(注-熊本県知事)が派遣した官吏が、我々の旅館へやって来た。非常に愉快な男である。彼はこの上もなく丁寧にお辞儀をした。私は床に膝をつき、私の頭が続け様に畳にさわる迄、何度も何度もお辞儀をすることが、如何にも自然に思われる私自身を、笑わずにはいられなかった。その上私は、息を口中に吸い込んでたてる、奇妙な啜るような音さえも、出すことが出来るようになった。


このシューシューと音をたてる奇妙な息遣いは緊張し恐縮しているという姿勢をあらわすものではなかろうか。今でもある年齢以上の男性は挨拶の場などでこの息遣いをすることがあるように思われる。

【典拠文献・参考文献】
E・S・モース 石川欣一訳『日本その日その日1』平凡社東洋文庫 1970年9月
E・S・モース 石川欣一訳『日本その日その日3』平凡社東洋文庫 1971年1月
渡辺京二『逝きし世の面影』葦書房 1998年9月

にほんブログ村 歴史ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 地域生活(街) 四国ブログ 松山情報へ
にほんブログ村





テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
QRコード
QRコード