「ぐずついた天気」

松山地方、本日(4月21日)も夜からは雨という予報で、このところぐずついた天気がつづいている。天気がぐずつく……「ぐずつく」は本来、にぶい態度、動作などをすることであるから、天気に対して「ぐずついた」というのは、考えてみればおかしな表現である。永井荷風(1879-1959)は天気予報で用いられるこの「ぐずついた天気」という表現に不快感をおぼえ、日記の中で次のように述べている。

(昭和七年)九月十六日。隣家の人このごろ新にラヂオを引きたりと見え、早朝より体操及楽隊の響聞出(きこえだ)し、眠を妨ぐること甚だし。たまたま耳を傾けて聞くに、放送局員の天気予報をなすに、北東の風あるいは南東の風あるいは愚図ツイタ天気などといふ語を用ゆ。これ頗(すこぶる)奇怪なり。われら従来北東南東などの語を知らず、東北東南と言馴れたるなり。またグヅツイタ天気といふは如何なる意なるや。愚図々々してゐるといふ語はあれど、愚図ついてゐるといふ事はかつて聞かざる所なり。この頃の天気の如き、陰晴更に定りなく風と共に村雲空を覆ひかかれば雨はらはらと濺来(そそぎきた)りて忽(たちまち)にして歇(や)む、このやうなる天気を愚図ついた天気といふにや。いかにも下品にて耳ざわり悪しき俗語なり。気象台の報告の如きものは正確にして醇良なる語を用ひざるべからず。


「ぐずついた天気」は昭和以降に発生した新語であったのだろうか。荷風は「北東」「南東」などの語も「奇怪」であるといっている。古くは日の出・日の入りの方向である東西が基軸で、「東北」「東南」「西北」「西南」というのが普通であったのだろう。荷風が下品な俗語と斬って捨てた「ぐずついた天気」は、今日では気象庁認定の「予報用語」、その定義は「曇りや雨(雪)が2~3日以上続く天気のこと」である。

【典拠文献】
永井荷風著・磯田光一編『適録 断腸亭日乗(上)』岩波文庫 1987年7月

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