ヒョンノキ(ヒョンの木)

松山南郊薬師
我見しより久しきひよんの茂哉  『寒山落木』巻四


子規、明治28年の句。「松山南郊薬師」は市内泉町の薬師寺(真言宗智山派)、「ひよん」は同寺境内にあるヒョンノキのことである。ヒョンノキ(イスノキ)はマンサク科に属する常緑高木で、葉に虫こぶ[注]というものができる。その虫こぶを笛のように吹くとヒョウヒョウと鳴るので、ヒョンノキの名がある。「茂」は夏の季語。

『散策集』では「薬師二句」の前書きで「我見しより久しきひよんの木実哉 寺清水西瓜も見えず秋老いぬ」とある。「木実」は秋の季語。「西瓜」も昔は秋に多く出回っていた(古い歳時記では秋の季語)。子規が当初、ヒョンノキの「木実」と思っていたのは、虫こぶであったから、『寒山落木』に収めるに当たって、これを「茂」と改め夏の句とした。

高浜虚子の『子規句解』に薬師寺についての思い出が語られているので、引用しておこう。「松山南郊の薬師といふところには清冽な清水が湧いてゐるのである。夏の暑い晩などはその清水を一と杓飲むのがたのしみで、子供であった私は兄夫婦につれられてそこに行ったこと等の記憶が蘇って来る。其処にはまた非常に大きなひょんの木があった。それが夏は葉が茂ってをって、その下蔭に立つといふことも亦涼しい思ひ出である」。泉町という現在の町名は同寺にあったその湧き水(子規の句にいう「寺清水」)に由来するものであろう。

薬師寺のヒョンノキは市の天然記念物に指定されている(昭和37年11月指定)。その側には「寺清水西瓜も見えず秋老いぬ 我見しより久しきひよんの茂哉 子規」と刻した句碑がある(碑陰「昭和三十年五月 愛媛県知事久松定武書之 現住俊元代 発起人土橋町和泉三郎」)。

[注]-虫こぶは、植物の根・茎・葉の各部の組織内に昆虫などが産卵・寄生することによって、その組織が異常に発育しこぶ状になる現象。虫癭(ちゅうえい)ともいう。ヒョンノキの虫こぶは、成虫が飛び出した後に穴があくので、笛のように吹くと音が出る。

【典拠文献・参考文献】
『子規全集』第2巻(俳句2)講談社 1975年6月
『子規全集』第13巻(小説 紀行)講談社 1976年9月
高浜虚子『子規句解』(市民双書21)松山市教育委員会文化教育課 1979年3月
牧野富太郎『原色牧野植物大図鑑』北隆館 1982年5月

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

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