春の雪

立春を過ぎれば暦の上では春。立春以降も寒気はまだ厳しく、地方によっては雪が降ることもある。立春以降に降る雪、春の雪…春に降る雪はよく和歌によまれている。

春がすみ立てるやいづこみよしのの吉野の山に雪はふりつつ


例示したのは『古今和歌集』のよみ人しらずの歌。「立春が過ぎたのに春霞はたたず、ここ吉野山には雪が降りつづいている」が一首の意である。古代人にとって春の雪は格好の歌材であり、早春の歌にふさわしい趣向であった。丸谷才一によると、春の雪は、古代人にとって不快なもの、いやなものでは決してなく、秋の豊作を約束する瑞祥であったという(おおもとは折口信夫の説)。春の雪は稲の花を連想させるもので、立春以降、雪が降れば、秋は豊作になると古代の人びとは考えた。春の雪を歌にするのはその瑞祥をことほぐ祝言の心意があるがためである。丸谷才一はそう指摘している。この指摘に従うと、上引の一首も単なる吉野山の歌ではなく、国土全体を祝福する意図をもった歌ということになり、歌のスケールが一挙にひろがる。

【典拠文献・参考文献】
奥村恆哉校注『古今和歌集』新潮日本古典集成 1978年7月
丸谷才一『新々百人一首(上)』新潮文庫 2004年12月

にほんブログ村 歴史ブログへ
にほんブログ村
にほんブログ村 地域生活(街) 四国ブログ 松山情報へ
にほんブログ村

テーマ : 詩・和歌(短歌・俳句・川柳)など
ジャンル : 学問・文化・芸術

最新記事
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
QRコード
QRコード