正岡子規が乗った「大阪商船」の船

明治17年(1883)5月設立の海運会社「大阪商船」。のちには多くの外国航路をもち、「三井船舶」と合併して「商船三井」となる会社だが、発足時は瀬戸内海を主力航路とする船舶業者だった。発足当初に運航していた航路は、大阪を起点とする18本線と大阪を起終点としない4支線。このうち愛媛県内に寄港便があるのは、下記の5本線と1支線だった。

「第五本線」 大阪-神戸-多度津-今治-三津浜-室津-三田尻-馬関-博多-唐津-伊万里
「第六本線」 大阪-神戸-多度津-今治-三津浜-室津-三田尻-馬関-博多
「第七本線」 大阪-神戸-高松-多度津-今治-三津浜-室津-三田尻-馬関
「第八本線」 大阪-神戸-多度津-今治-三津浜-長浜-別府-大分-佐賀関-臼杵-佐伯-延岡-細島
「第九本線」 大阪-神戸-多度津-今治-三津浜-長浜-別府-大分-佐賀関-八幡浜-宇和島
「第三支線」 広島-宮島-新湊-大畑-阿賀-三津浜-今治-尾道


県内の寄港地は今治、三津浜、長浜、八幡浜、宇和島。三津浜には上の6航路のどの便も寄港している。

正岡子規の筆になるものには、自身が乗った「大阪商船」の船の名称が記されていることがある。

楼上に喫茶す。舎主を召して、舟を以て三津に航するものを問う。舎主いわく、将に纜を解かんとすと。余、柴洲とともに帰思すでに切迫、一飯一浴を取るに遑あらず、倉皇として船に上る。船名は安寧丸なり。(「西帰日記」第二)

廿九日(中略)この日夕刻亀鶴丸(きかくまるてふ蒸気船にて広島につき 藤川てふ船問屋にとまりて(『竹乃里歌』明治十八年)

一月廿三日(中略)この日は平穏丸てふ大阪商船会社にて最下等の船なるよしなれど(中略)船足遅きこと甚だしく、船が波を蹴たてるとはいへず、白い波は立つことなく、只波の輪ができるのみ。(『筆まかせ』第二編「上京紀行」)

平穏丸は夜半に三津へ着船。直ちに乗りくみ出帆仕り候ところ、名詮自性とや申すべき一時間二里の速力といふことにて内海中でも自慢の遅足なれば其平穏なることは御推察くだされたく候。(同上)

此船は金陵丸といへば翻訳すれば金比羅丸也。(中略)翌朝夢さめて甲板に上り見れば、此船は金陵にあらで金龍なり。(同上)

八日大阪を発し神戸より新八幡丸に乗る。九日の日は甲板に明けて目なれし山一ツ一ツと我故郷も近し。午後三時やすやすと三津のみなとにつき車やとうて我宿に帰れば母君のつゝがもあらでゐますに旅のつかれも忘れはてたり。(『しゃくられの記』明治23年)

八月の末つかた廿六日の夜なりけん、故郷の親に分れて蝸廬をあとになしぬ。(中略)三津の港に船待しける程に月いとあかくさしいでゝ昼のあつさを取りかへす。(中略)つぐの日朝はやく宇治川丸の上りけるに乗りこみて神戸に行く。海上おだやかにして畳の上を歩むが如し。(同上)


「安寧丸」(明治18年7月4日乗船・神戸→三津浜)、「亀鶴丸」(18年7月29日・宮島→三津浜)、「平穏丸」(23年1月23日・三津浜→多度津)、「金龍丸」(23年1月25日・多度津→神戸)、「新八幡丸」(23年7月8日・神戸→三津浜)、「宇治川丸」(23年8月27日・三津浜→神戸)。

子規の記すところによれば、「平穏丸」は「大阪商船」の中でも最低の船で速力も遅かった。「三津より多度津まで十八時間を要せしことも今度が始めて也」と子規は言い、「三津よりは四十里足らぬ海上をにくさも二九し十八時間」という戯れ歌も詠んでいる。

明治23年4月・逓信省管船局発行『船名録』によってこれらの船の概要を記しておこう(全長・幅・総トン数・公称馬力・建造年・建造地の順。船主はいずれも「大阪商船」)。
「安寧丸」 174尺・24尺・451t・49馬力・13年6月・肥前国長崎
「亀鶴丸」 132尺・17尺・216t・15馬力・14年11月・摂津国小野新田
「平穏丸」 116尺・16尺・197t・16馬力・12年12月・摂津国兵庫
「金龍丸」 172尺・22尺・531t・60馬力・17年4月・摂津国兵庫
「新八幡丸」 125尺・17尺・224t・21馬力・13年7月・摂津国小野浜
「宇治川丸」 131尺・18尺・268t・35馬力・21年4月・大阪木屋新田

明治16年6月10日、子規は初上京の旅で三津浜港から乗船しているが(翌日神戸着)、研究家によれば、これは「豊中丸」という船だった。同船は総トン数120.43t・35馬力・建造13年、「大阪商船」の設立後は同社の持ち船となっている(土屋忠兵衛『船名録』)。

【参考文献】
土屋忠兵衛『船名録(改正増補版)』1885年9月
逓信省管船局『船名録』1890年4月
『子規全集』第6巻(短歌 歌会稿)講談社 1977年5月
『子規全集』第9巻(初期文集)講談社 1977年9月
『子規全集』第10巻(初期随筆)講談社 1975年5月
『子規全集』第13巻(小説 紀行)講談社 1976年9月
『子規全集』第22巻(年譜 資料)講談社 1978年10月
愛媛県史編纂委員会編『愛媛県史 社会経済3 商工』1986年3月

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テーマ : 歴史
ジャンル : 学問・文化・芸術

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