ケーベルの愛弟子・久保勉

岩波文庫から出ている『ケーベル博士随筆集』はケーベル(1848-1923)の愛弟子の久保勉(くぼまさる 1883-1972)の訳編になるものだった。久保勉は伊予郡米湊村西野(現在の伊予市)の生まれ。松山中学を経て海軍兵学校に入学。日露戦争に従軍したが、病のため軍籍を離れ、東京帝国大学哲学科に入った。大学で師事したケーベルの影響で、古代ギリシア哲学を専門とする学者の道を歩む。ケーベルに対してはその死まで内弟子のような立場で献身的に仕えた。昭和戦前は東北帝国大学教授、戦後は東洋大学教授。岩波文庫で今も版を重ねている『ソクラテスの弁明・クリトン』『饗宴』はこの人の訳になるものである。

久保勉訳編の『ケーベル博士随筆集』から少し引用しておこう。

我らが美を観じこれを把握する官能は想像力(ファンタジー)である――これは就中(なかんづく)芸術に独特必須なる官能である。あたかも想像力を離れて芸術のないのと同様、これを離れてはまた真の道徳も、宗教もないのである。

およそファンタジーなくしては真に人間らしき生存は考えられない。ファンタジーなき人間にとっては真なるものも美なるものもまた善なるものも存しないであろう、何となれば現象界においては、換言すれば感官的知覚もしくは経験にとっては何一つとして、それがファンタジーの媒介を経ざる限り、真でも美でもまた善でもないからである。世界が混沌にあらずしてコスモス(調和あり秩序ある世界の意)であり、また倫理的秩序であることを我らが認識するのは、ひとりファンタジーの力によるのである。


ケーベルの思想の核心には、ファンタジーの力に対する信頼があった。ケーベルの門下生たちにもそれはうけつがれているかもしれない。

【参考文献】
久保勉訳編『ケーベル博士随筆集』岩波文庫(改版) 1957年11月
『愛媛県百科大事典(上)』(大浜正隆執筆「久保勉」の項)愛媛新聞社 1985年6月

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テーマ : 歴史上の人物
ジャンル : 学問・文化・芸術

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