「人間が人間に贈りうる最大の贈り物」

「人間が人間に贈りうる最大の贈り物、それは『よい思い出』だ」――哲学者ガブリエル・マルセル(1889-1973)は、別れの挨拶のために訪れた今道友信にそう語った。

「神が人間に贈った最大の贈り物は自由意志だ」とダンテも言っていますが、あるときガブリエル・マルセルもそう言いました。続けてマルセルは私に「しかし、人間が人間に贈りうる最大の物がある。それは何かわかるかね」と聞いてきました。そのころ、私は三十四、五歳でまだ若く、しかも若く見えるほうでしたので、ガブリエル・マルセルもかなり揶揄するような調子で、「わかるかね」とお聞きになったのですが、いろいろ考えていたら、「いいかね、人間が人間に贈りうる最大の贈り物はよい思い出だ」と言われたのです。「いろいろなものは消えてしまう。人間が人間に与えるすべてのものは消えてしまう。しかし、よい思い出は消えない」とおっしゃった。それは私がいとまごいに行ったときの言葉でしたが、それ自身が、私にとって本当によい思い出になっています。(今道友信『ダンテ「神曲」講義』13「天国篇」Ⅲ)


「よい思い出は消えない」はマルセルの信念でもあり、実感でもあったのだろう。「よい思い出」を贈ること、それが人間が人間になしうる最善の行為なのかもしれない。

【参考文献】
今道友信『ダンテ「神曲」講義』みすず書房 2002年11月

[マルセルの上のエピソードは、今道友信の他の著書(『知の光を求めて』『人生の贈り物-四つの物語』)でも紹介されている。今道友信(1922-2012)は哲学者(美学・倫理学・中世哲学)。]

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テーマ : 歴史上の人物
ジャンル : 学問・文化・芸術

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