「鬼瓦」

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「鬼瓦が女房の顔にそっくりで……」というのが笑いどころの狂言の曲目、その名も「鬼瓦」というのがある。訴訟のため長期の京都滞在を余儀なくされていた殿がようやく国元へ帰れることになり、日ごろ信仰する因幡薬師堂に太郎冠者を連れてお礼参りをするのだが、その堂の屋根の鬼瓦を見て、殿は突然泣き出す。

(殿)飛騨の匠が建てたと聞いたが見事な堂ぢゃ。
(冠者)よい恰好な堂でござる。
(殿)あの屋根の角にある物は何ぢゃ。
(冠者)鬼瓦と申す物でござる。見事にいたしてござる。殿様はなぜ泣かしらるるぞ。
(殿)鬼瓦はそのまま女房ども(注-「女房ども」で自分の妻の謙称。この「ども」は複数の意ではない)の顔ぢゃ。それで泣く。
(冠者)見ますれば、お内儀様によく似せてござる。
(殿)目の皿ほどに見ゆる。よく似た。
(冠者)口の耳せせ(注-耳のうしろの部分)まで大きなもお内儀様ぢゃ。
(殿)いつのまに女房どもを何者がうつしてあそこには置いたぞ。
(冠者)不思議なことでござる。
(殿)冠者、よい仕合せで国へ帰る。めでたい、泣くところではない。めでたう笑うて下向いたさう。
(冠者)それは一段めでたう、ようござりませう。
(殿)笑へ笑へ。


鬼瓦を見て国元の妻を思い出した殿、鬼瓦に似た妻でも懐かしさにこらえきれず泣いたのであった。

【参考文献】
野村八良校注『狂言記 下』有朋堂書店 1926年8月

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正月二日

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老しづかなるは二日も同じこと 高浜虚子


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先づ女房の顔を見て年改まる 同


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初夢の唯空白を存したり 同


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生くることやうやく楽し老の春 富安風生


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独居(ひとりゐ)や思ふ事なき三ケ日 夏目漱石



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新年の句

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元日の人通りとはなりにけり 正岡子規


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正月の子供に成って見たきかな 小林一茶


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我に許せ元日なれば朝寝坊 夏目漱石


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年改まり人改まり行くのみぞ 高浜虚子


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祖母恋し正月の海帆掛船 中村草田男



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鴎外編集の奇書『椋鳥通信』

永井荷風の日記、昭和12年(1937)11月19日条に「枕上『むく鳥通信』をよみて眠る」という記述。この日、荷風は敬愛していた森鴎外の『椋鳥通信』を読みながら就寝した。

『椋鳥通信』は鴎外による海外情報の抄録記事。鴎外は自身が定期購読していた欧州の新聞などから情報を拾い出して編集し、『椋鳥通信』と題して雑誌に連載した(1909年~14年連載)。記事には下のような珍談に属するものが多く、一大奇書ともいうべき内容の読物となっている。

一九〇九年五月十五日発
SerbiaでKosta Nikolic(コスタ ニコリッチ)という百十五歳の爺さんが自殺した。病身になって世をはかなんだということである。少し滑稽に感ずる。

一九〇九年七月四日発
巴里の女優Cassive(カシーヴ)の部屋で情夫が自殺した。アレクサンドリヤの富豪Achillopyio(アキロプーロス)の息子で二十八歳である。この女の部屋で男の自殺したことがこれ迄四人あった。これが五人目である。


こうした記事がつづくこの書を荷風は睡眠導入剤代わりとしていたのかもしれない。

それにしても鴎外という人、官僚としての多忙な生活の中、自身の貴重な時間を費やして、なぜこうした珍談収集のような仕事をしたのだろうか。『椋鳥通信』が奇書である以上に、鴎外という人が不思議な、奇異な人であるように思われる。

【参考文献】
永井荷風著・磯田光一編『適録 断腸亭日乗(下)』岩波文庫 1987年8月
池内紀編注『森鴎外 椋鳥通信(上)』岩波文庫 2014年10月

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〔記事と画像は無関係〕

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山頭火の「子規忌」の句

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松山市居相町・椿神社(伊豫豆比古命神社)の境内にある種田山頭火の句碑。「子規忌」の前書をもつ「句碑へしたしく萩の咲きそめてゐる」の句が刻まれている。

今日9月19日は正岡子規の忌日。子規の忌日は「糸瓜咲て~」の絶筆の句に因んで「糸瓜忌」、また「獺祭書屋主人」の別号に因んで「獺祭忌」ともいう。

以下、「子規忌(糸瓜忌・獺祭忌)」を詠んだ俳人たちの句。「叱られし思ひ出もある子規忌かな 高浜虚子」「糸瓜忌や子規全集に恋あらず 加藤楸邨」「糸瓜忌や俳諧帰するところあり 村上鬼城」「糸瓜忌や虚子に聞きたる子規のこと 深見けん二」「供華活けて子規忌華やぐものとなる 稲畑汀子」「月並の句をな恐れそ獺祭忌 茨木和生」。

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